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梅雨の切れ間のある見事に晴れた日の朝、俺は反対車線を走る電車のレールをぼんやりと眺めながら家路を辿っている。 確か難波駅で電車に乗ったのが早朝5時であったはずなのに、現時刻午前10時、俺は和歌山市駅発難波行の急行列車に揺られている。 飽きもせずに5時間も電車に乗っている計算である。車窓に映る景色が泉南の海を綺麗に映していたので、レールからそっちに目を移して、 昨日の出来事を思い出してみた。 俺は親友の誘いを受け、深夜のミナミを徘徊していた。行きつけの鉄板焼屋が黒門市場にあると言うので行ってみることにした。 この辺は16才の頃から5年間お世話になった乾物屋があった場所なので、凄く懐かしい気分がする。そんな5年間の想い出が俺の内臓に火を灯したのだろうか。 旨い肴を箸で少しづつ口に運びながら、調子良くアルコールを流し込み、会話に花を咲かしていた。当時16才の俺は職人気質の乾物屋の社長の下で 丁稚並みの扱いで働かせてもらっていた。社長と言っても名前だけで、10坪もない小さな店には時として社長の奥さんが手伝いに来る位で、 ほとんど俺と社長しかいない。そんな店である。 社長は店の裏手にある畳一枚も敷けないような小さな部屋で、エロ本や競馬新聞を読んだり、 昼寝をしたりしているのに、俺はと言えば大小に関わらず事有る事に厳しく注意され、殴られたり蹴られたりもする。俺はそんな社長を心の底から恨んでいた。 しかし、ある日の出来事である。 しょうもない事で俺は隣の精肉屋のおっさんと揉み合いの喧嘩になって、相手2人にボコボコにされそうになったその瞬間に 目の前に飛び込んで来たのが社長であった。社長は右手に掴んだ木刀で肉屋のおっさんをボコボコに殴りまくったのだった。 その後、社長は競馬新聞を読みながら、謝る俺にこう言った「気にするな」。余りのカッコ良さに圧倒されたと同時に、12才の時から徐々に流れ出していた 俺のロックの血に火が着いたのを感じた。 今の俺がここに居るのは、あの社長のお陰かもしれない。 そんな尊敬する社長の店も10年位前に何処かへ行ってしまった。 「そろそろ行こか」かなり良い気分で鉄板焼屋を後にした。 俺達はK君がイベントをしているというので、そこから歩いて5分程の味園ビルの地下にあるクラブに行く事にした。おどろおどろしいホール内で繰り広げられる DJやバンドに酔い、そして更に調子良く進むアルコールにノックアウト寸前であった俺は、外の空気を吸いに出ることにした。 一昔前の超豪華飲食ビルである味園ビルは、子供の頃から有名で憧れの存在でもあった。 そのビル内をウロウロと探索してみた。 そのうちに、小学生の頃、新年の親戚が集まる宴会で初めてここに来た時の出来事を思い出した。宴会の途中で、やんちゃだった親戚の兄ちゃんが 「子供集れ!」と号令をかける。何が始まるのか半信半疑で、兄ちゃんに付いてウロウロと味園ビルを探検し、たどり着いたのがビル片隅にあるトイレである。 そこで生まれて初めてのタバコを経験した。「よ〜し、よし、そのまま吸い込むねん。どや、どや、気持ちええやろ」グラングランして、 何が何だか解らなかったが、衝撃であった。もしかして、俺のロックはこの味園ビルから生まれたのかもしれない。そんな事を考えてブラブラしていると、 昔よく遊んだT君に出会った。 ビル内にある知り合いのバーで飲もうということになり、昔話に花を咲かしながら、更にアルコールを流し込む。 その後も色々な人に会い、楽しく話した感じはするが、俺の記憶は何処かへ飛んでしまっている。俺が暴れただとか、暴言を吐いたとか、 そんな事など一切記憶に無い。ただ、薄明るくなってきたのと、朝5時の電車に乗ったのと、楽しかったことしか覚えてはいない。 梅雨の切れ間のある見事に晴れた日の朝、俺はキラキラと光る綺麗な泉南の海をぼんやりと眺めながら、電車に揺られている。 人生も半ばを過ぎながらも、今だにこんなことを繰り返している。 これでいいのか。 いや、これでいいのだ。 全てを楽しんでいるのだから。 人生とは楽しむものなのだから。 あ〜あ、それよりも何よりも、早く家に帰りたい。 「電車よ、もっともっと早く走って下さい。 車掌さん、どうかお願いします。」 |
| (写真/俺 2003 文/alcoholic KTO) |
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