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1984年の夏の出来事である。「おばちゃん、車貸してくれへんか?」「あんた、免許取れたんか?」「ほら、これ、俺の免許証や、一発で合格したで!」 「う〜ん、貸したりたいけどなあ、おばちゃんも買い物に行かなあかんからなあ」「絶対すぐに返しに来るから、ちょっとだけ貸してえや」 「しゃあないなあ、事故とかしたらアカンでえ、安全運転やでえ」 僕の家から歩いて10分程の所に住んでいる親戚のおばちゃんは、 本当に嫌がりながらもカローラの鍵を僕に渡した。僕はシメシメと思い、お世辞にも綺麗とは言えないカローラのアクセルを踏み込んだ。 緊張しながらも、車を運転しているという優越感は、僕の気持ちを最高潮に持っていった。こうなるとこっちのものである。 免許証を取り立ての人間に車を与えることほど危険なことはない。さあ、何処へ行こうか。誰を誘おうか。頭の中では、あらゆる想像がグルグルと回っている。 今、僕の支配しているボロボロのカローラは、どんな願い事でも叶えてくれるような気がしていた。僕は勇気を出して、片思いの清水さんに公衆電話から連絡した。 「今、何してるん?車あるねんけど、どっか行けへん?」 「えっ、車なん。行く!行く!」 車の威力は凄いものである。 僕と彼女を乗せてカローラは調子良く走り続けた。興奮状態で何を話したのかはっきりと覚えていないが、車内が楽しさで満ち溢れていたことは覚えている。 「コーヒーでも飲みに行こかあ」 「うん、私も飲みたかってん」 そう答えてくれた清水さんの可愛い笑顔は、すっかり僕を有頂天にさせてしまった。 ファミリーレストランでコーヒーを飲んでいる間、僕は彼女にどのタイミングで告白するかを考えていた。 「海でも見に行こか?」 「行きたい!どこの海?」 「泉大津の汐見埠頭まで行こ!」 よし、告白のタイミングはそこや。そう決めたら、即行動だ。そのファミリーレストランの駐車場から車を出す時に事件は 起きた。ガッシャーン、前に進むつもりがバックしてしまったのだ。慌てて前進して、左にハンドルを切ると、次はガリガリガリガリと音を立てた。 左に停まっていた車と接触していたのだ。僕は咄嗟の判断で逃げる事にした。 車に傷がついた事よりも、大好きな女の子の前での大失態に、 恥ずかしくて泣きそうになりながら、ボローラを泉大津に向けて走らせた。ついさっきまでの楽しい雰囲気が嘘のように会話も弾まない。 雨も降り出した。何だか気まずい感じなので帰ろうかと思ったが、何かの拍子に状況が変わるかも知れないという最後の望みを信じて、 汐見埠頭まで行く事にした。何とか無事に汐見埠頭に到着したものの、告白するどころか、逆に当て逃げしたことを責められ、最後には 「用事があるから早く帰りたい」とまで言われてしまった。帰り道の事はほとんど覚えていないが、どんよりと曇っていたのと、 焼けたアスファルトに雨が落ちた匂いが、僕達を包んでいたのを覚えている。それから、彼女とちょこちょこと会ったりしたが、この泉大津の一件以来、 どことなくギクシャクした感じは消えず、僕の彼女への想いは1984年の夏とともに消えてしまった。 さて、前置きが長くなってしまったが、そんな僕の切ない想い出が詰まった泉大津の汐見埠頭「泉大津フェニックス」で、2005年の夏の終わりに、 凄いロックなイベント「OTODAMA〜音泉魂〜」が開催されるのだ。主催は、ファンダンゴのライバルというべきか、 敬愛して止まない大阪ライブシーンの立て役者「清水音泉」である。僕の勝手な考えかも知れないが、このイベントは「本物のライブバンド」 「本物のライブイベント」とは、こうあるべきだとはっきり提示している、今年一番のイベントになること必至であろう。 要するに、泉大津フェニックスに1日限りの大きなライブハウスが出現するといった感じだ。詳細は「www.shimizuonsen.com」まで! あれから21年経った2005年夏、やっと片思いだった清水さんの幻影が消せそうです。皮肉にも同じ名字である「清水音泉」の 渾身のイベント「OTODAMA」の開催によって。2005年9月3日、僕は必死で楽しませてもらおうと思っている。 そして、帰り道には、あの想い出の場所にもう一度立ってみようと思う。 |
| (写真/文 加藤鶴一) |
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